藻岩シャローム教会
北海道らしい爽やかな風が吹き渡り、どこまでも続く広い青空に一筋の雲が流れる六月吉日。
私は札幌市藻岩山の麓にある、藻岩シャローム教会にいた。
教会の周りは目にも鮮やかな新緑で覆われ、競い合うように草花が咲き誇っている。
その教会のヴァージンロードに通じる重厚な扉の前で、私は純白のウエディングドレスに身を包んだ娘と腕を組み立っていた。
天窓からは、淡い陽の光りが差し込み、扉の向こうからは、厳かな賛美歌が微かに聞こえてくる。
「ああ、もうすぐ・・・」
そう思うと、目頭から熱いものが流れてくる。
そう言えば、今日は娘の25回目の誕生日でもある。
25年という月日が、それこそ走馬灯のように浮かび上がり頭の中を駆け巡る。
私は思わずメガネを外し、目を拭った。
何度も何度も・・・
しかし、なかなか流れ落ちるものは止まらない。
私は目を拭いながら娘の顔を見た。
娘は何故か穏やかな顔をして私を見つめている。
私は思わず、
「このまま二人で家に帰りたい」
そういう強い衝動に駆られた。
しかし、その思いを遮るかのように、教会のスタッフは重い扉に手を掛けた。
そして、ゆっくりとその扉を開いていく。
扉が開かれると、うっすらとした教会の中に祭壇へと続く淡いエメラルドグリーンのヴァージンロードが浮かび上がった。
オルガンとフルートの奏でる賛美歌が、まるで可憐な花びらが舞うように私と娘を包み出す。
そして、私と娘はゆっくりと初めの一歩を踏み出した。
ヴァージンロードの上を、娘と共に過ごした思い出をかみしめるように・・・